メキシコ トセパン協同組合の取組み

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トセパン協同組合における学校教育

みんなの学校 トセパン・カルネマチティロヤン

メキシコでは、親の経済的な理由と合わせ、毎日は通学できない距離にしか学校がない、という事情から就学できない子どもが多くいます。トセパン協同組合の組合員も、そうした問題を抱えていました。

そこで、学校を作ろうとの思いから、2006年に幼稚園、2008年に小学校、その後、中学校も設立されました。これらは現在、メキシコ政府の認可を受けた私立の学校となっています。

学校の名前は、「トセパン・カルネマチティロヤン」。ナワット語で「みんなの学校」という意味です。

まさにトセパンらしい名前です。「みんなの学校」は地域内外で高く評価されており、いつも見学者が絶えません。海外から視察に来る人もいます。入学希望者も多いのですが、運営費の確保が難しく、教師を増やせないという現状から、組合員の子どもに限定して受け入れています。幼稚園から中学校まで合わせて80人程度がここで学んでいます

「みんなの学校」では、モンテッソーリ教育をベースに、先住民の文化や知識を反映させた独自の教育を行っています。

大切にされている3つの方針

まず1つめは、”組合員としての心構え“です。

子どもたちは、トセパンという組合の一員として誇りを持ち、将来的にもこの地域で暮らしていけるよう農作業、ハチミツの採取作業、民芸品づくりを体験します。ベテランの組合員の指導を受け、子どもたちはさまざまな作業を体験します。野菜作りにしても、土づくりから収穫までのサイクル全体を学びます。同時に、組合の歴史を学ぶことで、トセパンの重要性や組合員としての意識を育んでいきます。

農作業をする子ども
農作業の授業風景
収穫物と子ども
収穫物する子ども

2つめは、”先住民の言語や文化の再評価“です。

特に、家庭でスペイン語を話す子どもが増えており、ナワット語の話者、またナワット族としてのアイデンティティーの喪失に対してトセパンは危機感を感じています。このため、幼稚園からナワット語の授業があります。また、言葉だけではなく、身近な物や自然に対するナワット族の考え方を学びます。

毎週月曜の朝礼や入学式、卒業式など節目の行事では、民族衣装で正装します。これは、先住民としての誇りや伝統を感じ、民族衣装の大切さを体感する機会となっています。

民族衣装で卒業式に臨む子供たち

そして3つめは、?地域の豊かな資源の再確認“です。

地域の動植物を調べ、図鑑づくりをしています。植物に関しては、伝統薬として使ってきた薬草の知識も、お年寄りに聞き取りをしながらまとめます。また、この地域の在来種のハリナシミツバチのハチミツ採取作業を行うことで、伝統技術と森を守る大切さも学んでいます。

伝統的養蜂の巣箱
学校での採蜜作業体験
学校での採蜜作業体験

日本の学校をお手本にした掃除の時間や、親が作る給食

この他、メキシコの一般的な学校では見られない掃除の時間も設けています。子どもたちに校舎の清掃活動をしてもらうことで、男女の区別なく家事を分担できるようになってほしいという考えもあるそうです。これを取り入れたきっかけは、トセパンのアドバイザーであるレオナルドさんが来日した際、日本の学校を訪問したことでした。レオナルドさんは、清掃の時間があることに感心し、帰国後にこの掃除時間を導入したそうです。

また、子どもたちにとって大切な日々の給食にもトセパンらしさが見て取れます。子どもたちの中には、貧しさから毎日栄養バランスのとれたお弁当を持たせることが難しい家庭もあります。学校では、なるべくトセパンの地域内で栽培されたものや、子どもたちが農作業を通して自分たちで収穫した食材を使って伝統的な食事を作っています。しかも、この給食は、毎日子どもたちの親が交代で学校に出てきて作ります。同じものばかりにならないよう献立も親たちが話し合って決めます。栄養のある愛情たっぷりの給食を食べることで、子どもたちは食べ物と給食を作ってくれる親たちへの感謝の気持ちを持つことになります。

給食の様子
給食の様子

未来へ引き継ぐ、ナワット族の伝統と文化

トセパン協同組合設立当初の世代を第1世代とすると、現在「みんなの学校」に通う子どもたちは第3世代。そして、彼らの親にあたる第2世代でも、ナワット語を話すことができない人たちもいます。しかし、学校でナワット語やその伝統を学んだ子どもたちが、家庭で親に伝える、教えるということも見られるようになりました。今後は、こうした第2世代へのナワット語の教育も大きなチャレンジとして取り組んでいきたいそうです。

幼稚園の第1期生は、すでに大学生になっています。中にはメキシコシティ(首都)の国立農業大学で学ぶ学生もいて、卒業後に地元で活動するため勉強に励んでいるといいます。今後も、ナワット語や先住民としてのアイデンティティーが失われないよう、トセパンではナワット語の教科書や教育をさらに充実させ、学校教育に力を注いでいきます。


*ウインドファームでは子供たちが使うナワット語の教科書作成費や、給食費の資金を寄付で募っております。
詳しくはこちらを

トセパン基金代表 アドリアナさんからのメッセージ

アドリアナさん
アドリアナさん

メキシコでは、他の途上国で見られるように、経済のグローバル化によるひどい経済的不公平や貧困の問題を抱えています。メキシコにはさまざまな先住民族が暮らしていますが、歴史の中で長い間虐げられてきた先住民族が暮らす地域でのこうした貧困や社会問題は特に深刻です。トセパンは、資本主義経済ではなく、社会的連帯経済の中でこうした問題に取り組んできましたが、それを持続していくためには、この社会的連帯経済をさらに進めていくための教育モデルが不可欠だと考えています。

現在、私たちにとって脅威となっているのが隣の国である米国です。メキシコの輸出品のうち80%が米国との取引で、今はそこにさらに20%もの関税がかけられようとしています。不幸なことに、それによって最も影響を受けるのは一番貧しい人たちです。だからこそ、資本主義による市場経済ではなく、オルタナティブな経済を広げ、未来世代の子どもたちが学べる教育モデルを作ることが緊急に求められています。

しかし、現在のメキシコの教育システムは、こうした理念とは逆のものであるばかりか、さらなる社会的不平等をを生むという結果になっています。

トセパンによって進められている独自の教育モデルは、実際に素晴らしい成果を上げています。ここで学んだ子どもたちが、先住民としての誇りを持ち、次世代のトセパンのメンバーとしてこれまで組合が取り組んできた持続可能な地域づくりを受け継ぎ、発展させていってほしいと思っています。しかし、実際のところ、先住民族の宇宙観や連帯経済を進めていくのに、教材はまだ十分にありません。

そこで、コーヒーやハチミツを通してつながっている日本の皆さんにも私たちの取り組みの重要性をご理解いただき、先住民の子どもたちの未来を切り開くために応援していただけるととても嬉しいです。
そして、いつか私たちの学校を見にトセパンにもいらしてください。

子どもたちとお待ちしています。

遠いメキシコの国より感謝をこめて
アドリアナ・デ・ラ・ペサ
(トセパン基金代表)

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